東京急行電鉄(東急)は東京都と神奈川県に跨って7つの路線を持つ大手私鉄である。田園調布や自由が丘、代官山など沿線の街のブランドイメージを向上させることに長け、総合ファッションビルの渋谷109をはじめとして渋谷を若者の街として発展させたことに一役買ったのもこの鉄道会社である。東急グループは鉄道事業の他にも住宅開発・不動産業・百貨店・スーパー・ケーブルテレビ・学校運営(東京都市大・亜細亜大)など、さらに近年では電力事業にも参入しているヤクザ大企業である。
さてその東急の路線の一つである東横線を私は普段使っているのだが、東横線の急行はインターネット上では「隔駅停車」と揶揄されるのを御存知だろうか。ここで、東急線の路線案内を見ていただきたい。
東横線内の急行電車の停車駅は、渋谷-中目黒-学芸大学-自由が丘-田園調布-多摩川-武蔵小杉-日吉-綱島-菊名-横浜でおおよそ1駅飛ばしなのだ。これが各駅停車になぞらえて隔駅停車と呼ばれる所以である。はたしてこの比喩は本当に正しいものなのだろうか?
今回は東急線の停車駅が利用客数・所要時間を少しばかり考察してみたい。
東横線(TY01-21)
2017年度駅別乗降客数
駅名 | 乗降客数(人) | ||
渋谷 | 468,033 | 駅名 | 乗降客数(人) |
代官山 | 32,148 | 元住吉 | 47,191 |
中目黒 | 196,964 | 日吉 | 150,563 |
祐天寺 | 31,494 | 綱島 | 103,247 |
学芸大学 | 77,864 | 大倉山 | 55,635 |
都立大学 | 48,886 | 菊名 | 138,346 |
自由が丘 | 99,512 | 妙蓮寺 | 25,680 |
田園調布 | 24,435 | 白楽 | 45,224 |
多摩川 | 14,901 | 東白楽 | 14,190 |
新丸子 | 20,626 | 反町 | 13,283 |
武蔵小杉 | 176,606 | 横浜 | 362,526 |
東横線は渋谷と横浜を結ぶ東急電鉄の中核とも言える路線である。
1926年2月14日に東京横浜電鉄が丸子多摩川(現多摩川)-神奈川(廃止)間が開業し目黒蒲田電鉄の目蒲線と相互直通し目黒-神奈川間で運行を開始した。翌年には渋谷-丸子多摩川間が開通して路線名を「東横線」として、1932年には渋谷-桜木町間が全通した。1942年に小田急電鉄や京浜急行電鉄を吸収して「東京急行電鉄」と社名を変更した。
1964年に営団地下鉄(現東京メトロ)日比谷線と相互直通運転を開始、2004年には横浜高速鉄道みなとみらい線の開業に伴い相互直通運転を開始、横浜-桜木町間は廃止された。また2013年には東京メトロ副都心線・西武池袋線・東武東上線と相互直通運転を開始、それに伴って日比谷線との直通は終了した。
また日吉-田園調布間は目黒線と並走する複々線区間となっている。
特急の停車する駅は中目黒以外乗降客数が全て100,000人を超える駅で、中目黒も100,000人近い乗降客数がある。中でも武蔵小杉駅は近年JR横須賀線・湘南新宿ラインの停車駅となりタワーマンションなどが次々と建設され発展が著しい街の一つである。急行停車駅の綱島は乗り入れ路線のない東横線の駅で最も乗降客数の多い駅である。これは綱島駅がバスターミナルとなっていて鶴見・川崎・新城・荏田方面からバスが発着すること、周辺の住宅開発が進んでいることなどが要因として挙げられるだろう。
ここで各駅停車しか停まらない駅に目を向けてみよう。
乗降客数の多い駅は軒並み神奈川県内に集まっている。乗降客数の最も多い駅は大倉山駅で急行の停車する田園調布や多摩川より多い。大倉山駅に急行が停まらないのは菊名-大倉山-綱島-日吉と4駅並んでしまうためであり、急行電車の速達性が損なわれるためだろうか。元住吉・大倉山・白楽の3駅は東京都内の各停しか停まらない駅より乗降客数が多い。ちなみに乗降客数の増加率が最も大きかったのは東白楽駅で13,865人→14,190人、前年比2.3%の伸びである。
ここで各種別の所要時間を見てみよう。
渋谷→横浜 | 特急 | 27分 |
急行 | 31分 | |
各駅停車 | 45分 |
※日中12時台の所要時間で、途中駅での待ち合わせ時間を含める
「隔駅停車」と揶揄される急行も特急と比較すると4分しか所要時間が変わらないことが分かる。今の急行電車の停車駅は一定の速達性を確保しつつ乗降客数の多い駅から客をさらっていく最大限の譲歩なのかもしれない。
田園都市線(DT01-27)
駅名 | 乗降客数(人) | ||
渋谷 | 695,336 | 駅名 | 乗降客数(人) |
池尻大橋 | 63,855 | たまプラーザ | 83,797 |
三軒茶屋 | 139,061 | あざみ野 | 136,448 |
駒沢大学 | 78,934 | 江田 | 38,331 |
桜新町 | 72,687 | 市が尾 | 44,170 |
用賀 | 66,948 | 藤が丘 | 27,331 |
二子玉川 | 102,621 | 青葉台 | 112,929 |
二子新地 | 21,609 | 田奈 | 11,338 |
高津 | 32,000 | 長津田 | 128,892 |
溝の口 | 156,316 | つくし野 | 11,954 |
梶が谷 | 39,880 | すずかけ台 | 11,630 |
宮崎台 | 50,138 | 南町田 | 29,415 |
宮前平 | 51,787 | つきみ野 | 10,804 |
鷺沼 | 63,124 | 中央林間 | 105,786 |
通称「田都」。渋谷から神奈川県大和市の中央林間までを結ぶ31.5kmの路線である。
最も早く開業したのは玉川電気鉄道の溝の口線として開業した二子玉川-溝の口間である。当時は路面電車の区間として開業したが、1943年に大井町線に編入され1945年に「田園都市線」として大井町-二子玉川-溝の口間で営業を開始した。
1966年になると溝の口-長津田間が延伸開業した。これは多摩田園都市にアクセスするための区間である。多摩田園都市とは東急電鉄主導の総面積約5000haの住宅開発計画である。
また1969年に廃止された玉川電気鉄道玉川線を受け継ぐ形で1977年には渋谷-二子玉川間の新玉川線が開通、1979年には二子玉川以西との全面直通運転を開始した。1984年には中央林間までの全線が開業した。
2009年には二子玉川-溝の口間が複々線化され大井町線の電車が二子玉川止まりであったのが溝の口まで乗り入れるようになった。
田園都市線の問題点は朝夕の激しい混雑が発生するという点である。
2017年度で最も混雑した区間は池尻大橋→渋谷間で平日7時50分から1時間の平均で185%である。過去にはパナソニックの高耐久ノートパソコンの「レッツノート」が朝ラッシュ時の田園都市線の車内で耐久試験を行ったことがあり、100kgもの圧力がかかったというエピソードがある。
このような混雑が発生するのにはいくつかの理由がある。
1つはターミナル駅である渋谷駅の構造上の問題である。
渋谷駅は地下にある島式ホーム1面2線の構造で電車が交互に発着できないため、駅手前で後続の電車が徐行を強いられ、それが遅延の原因となっている。またホーム幅も狭く、乗降に時間がかかるのも遅延の一因であるが、地下にあるため拡幅も非常に困難である。
二子玉川から渋谷方面の急行電車の混雑を緩和するために2007年からは新たに朝方の電車に「準急」を設けて通勤・通学客の分散化を進めたり2017年からは時差通勤を推奨する「時差biz」などの策を講じたりして混雑問題の解消に努めているが、依然として混雑率は高い傾向にあるのが実情だ。
田園都市線の駅は特に二子玉川以西は駅によって乗降客数の差が激しいのが特徴である。これは東急がすべての駅において住宅開発行っている訳ではないことによるものだろう。田奈駅は11,338人と田園都市線内で最も乗降客数が少ない駅であるが、田奈駅・長津田駅圏内では東急はほとんど住宅開発を行っていない。
あざみ野駅は当初は急行は通過する駅であったが、1993年に横浜市営地下鉄3号線(ブルーライン)が乗り入れると地下鉄を運営する横浜市側は東急電鉄に対して急行の停車を求めた。しかし、東急側は当初横浜市には地下鉄3号線の乗り入れる駅はあざみ野駅ではなく隣のたまプラーザ駅にするよう求めていた。しかし結果的に横浜市側は東急の要求を却下する形になった為、東急側はこれに不満を抱き地下鉄が乗り入れてもしばらくの間は急行を通過させる形をとった。
しかし、利用客からの急行停車を求める声もあって2001年にはあざみ野駅も急行停車駅に設定された。
各種別の所要時間は以下の通り。
渋谷→中央林間 | 急行 | 39分 |
準急 | 42分 | |
各駅停車 | 61分 |
東横線の特急と各停の時間差が20分弱であったことを考えると田園都市線の急行は速達性が高いといえる。準急と急行の所要時間差が僅か3分であるのも特筆するべき点だろう。しかしこれは日中のダイヤ上の所要時間であり、先述したように朝夕ラッシュ時ではこの限りではないことを考慮していただきたい。
大井町線(OM01-16)
駅名 | 乗降客数(人) | ||
大井町 | 143,269 | ||
下神明 | 8,339 | 駅名 | 乗降客数(人) |
戸越公園 | 14,268 | 九品仏 | 13,281 |
中延 | 23,071 | 尾山台 | 30,551 |
荏原町 | 17,128 | 等々力 | 29,672 |
旗の台 | 25,459 | 上野毛 | 22,538 |
北千束 | 7,078 | 二子玉川 | 60,368 |
大岡山 | 29,377 | 二子新地 | - |
緑が丘 | 10,100 | 高津 | - |
自由が丘 | 57,028 | 溝の口 | 55,485 |
大井町線は1927年に目黒蒲田電鉄が大井町-大岡山間を大井町線として開業したのが始まりである。1929年に二子玉川までの全線が開業。先述の田園都市線の開業によって一時的に大井町線という名前は消滅したが、1979年には田園都市線の運行区間の切り離しによって名前が復活。2008年には新造した6000系車両による急行電車の運転を開始させた。当初の急行は6両編成での運転だったが2018年には全急行電車の7両編成化が完了した。
また、大井町線では東京近辺では珍しい「ドアカット」扱いを九品仏駅で行っている。これは九品仏駅のプラットホームの長さが4両編成分しかないため、5両編成の電車のうち一番溝の口寄りの1両の扉を閉め切る扱いのことである。以前には戸越公園駅でもドアカットを行っていたが2013年には解消されている。(ちなみに東急線内でのドアカット扱いは東横線の菊名駅でも行われていたが、こちらも1991年頃に解消された。)
大井町線の急行停車駅と各駅停車のみ駅の乗降客数の差は顕著だ。中延駅の乗降客数の多さは都営浅草線と接続しているのが原因だろう。
乗降客数増加率が一番高いのは溝の口駅で53,805人→55,485人の3.1%である。溝の口駅周辺も武蔵小杉駅と同様、大井町線の乗り入れなどが要因となって駅周辺の発展が著しい街である。
各種別の所要時間は以下の通り。
大井町→溝の口 | 急行 | 20分 |
各停(新地・高津通過) | 29分 | |
各駅停車(全駅停車) | 29分 |
二子新地・高津を通過する各停とその2駅にも停車する各停との所要時間差はほぼないと考えていいだろう。大井町線は溝の口方面と接続したことにより田園都市線方面から大井町、さらに大井町から京浜東北線への接続やりんかい線の東京臨海部へのアクセスの利便性が高まったことにより、急行の存在意義は大きいだろう。
目黒線(MG01-13)
駅名 | 乗降客数(人) | ||
目黒 | 276,680 | 駅名 | 乗降客数(人) |
不動前 | 30,805 | 田園調布 | 21,740 |
武蔵小山 | 53,186 | 多摩川 | 3,873 |
西小山 | 37,508 | 新丸子 | 6,661 |
洗足 | 14,903 | 武蔵小杉 | 48,857 |
大岡山 | 21,955 | 元住吉 | 19,318 |
奥沢 | 14,198 | 日吉 | 54,653 |
目黒線は1923年に目黒蒲田電鉄が目黒-丸子(現東急多摩川線鵜の木駅)が開通したのが始まりである。当時の目黒線は現在の東急多摩川線と合わせて目蒲線と呼ばれており、目黒-蒲田間が全通したのが同じ23年の11月である。
東横線の混雑を解消するため目蒲線の改良が1994年に田園調布駅の地下化を皮切りに勧められ、2000年には目蒲線を目黒-田園調布間を目黒線、多摩川(分割化前は多摩川園)-蒲田間を東急多摩川線(東急と付くのは西武鉄道に多摩川線が存在するため)とし、同年から営団地下鉄南北線、埼玉高速鉄道線、都営地下鉄三田線と相互直通運転を開始した。2006年からは急行運転を開始され、08年には武蔵小杉-日吉間が延伸された。
なお2017年度の混雑率は不動前→目黒間の171%でこれは並走する東横線より高い数字である。これは目黒線の電車が6両編成で東横線の8両・10両編成より短いことなどが原因であろう。
武蔵小山駅の乗降人員が多いのは周辺に都立小山台高校や星薬科大などの教育機関や都内最大級の商店街の小山台商店街があることが一因だと考えられる。
各種別の所要時間は以下の通り。
目黒→日吉 | 急行 | 18分 |
各駅停車 | 24分 |
急行と各停の所要時間差は僅か6分。また直通先の三田線・南北線・埼玉高速鉄道線内では急行も全ての駅に停車する。
今回は東急電鉄の路線を乗降客数と所要時間で考察(のようなもの)をする試みをした。
ここからは個人的な悩みの話になってしまうが、毎回どうもレポートのようなかしこまった記事になってしまって血が通った記事が書けないのが私の悩みである。もう少し思った通りのことを書くのも良いのかも知れない。ブログを書くことにもだんだん慣れてきたと感じているので、もうちょっと頑張ってみたい。
それでは今回はこの辺で。