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NHK-BSプレミアム「謎の日本人サトシ~世界が熱狂した人探しゲーム~」

※当記事は番組内容の核心に触れる内容があります。

 

昨今、その取り扱いを巡って世界中で問題となっている電子通貨の「ビットコイン」は、2008年に発表されたある論文が発端となって生まれた。

その論文には「サトシ・ナカモト」という名前が記されているが、今日に至るまでサトシ・ナカモトが何者かということは明らかになっていない。

しかし、この番組の「サトシ」とはビットコインのサトシ・ナカモトのことではない。

これは、2004年にイギリスで生まれたとあるゲームの話である。

 

代替現実ゲーム(だいたいげんじつゲーム、alternate reality game)は、日常世界をゲームの一部として取り込んで現実と仮想を交差させる体験型の遊びの総称である。

インターネット、テレビ、雑誌、ラジオ、ポスター、映画、FAXサービス、携帯電話、携帯ゲーム機など様々なプラットフォームの一部もしくは全てを通して提供される断片的な情報を、不特定多数のプレイヤーが協力して情報を主体的に集めながらゲームの進行へ影響を与えることで、1つの大きなストーリーが明らかになってゆくという特徴を持つ[1]

なお、拡張現実augmented reality)としばしば混同されるが、別のものである。また、代替という訳語から「代わりの」という含みがある alternative としばしば紹介されることがあるが、「交差する」というニュアンスの alternate が正式である[2]

フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』より引用

 

イギリスのゲーム会社が2004年に発表したARG(代替現実ゲーム)の「Perplex City(パープレックス・シティ)」では、256種類のカードに書かれた問題を解決すると、世界のどこかに隠されている「キューブ」を見つけることができるというものであった。

カードには難易度に応じて色分けされており、プレイヤーはカードに書かれた謎を解くために様々なメディアを使ったり、ときには他のプレイヤーと協力したりして、謎を解き明かす。

2008年には殆どの謎が解明されてキューブが発見されたのだが、最後まで解明されなかったの3つの謎のうち256種類のカードの中の最後の1枚である「10億分の1」というカードが注目を集めるようになった。

 

そのカードには「私を見つけなさい」という文字と共にどこかの街中で写したと思われるアジア人の男性の顔が写っていた。

 

また、指定された番号に電話をかけると、カードの謎を解くためのヒントがもらえるというシステムになっていて、そのヒントによると「私の名前はサトシ」と返ってきたという。

 

そこから謎の日本人「サトシ」探しが始まった。

パープレックス・シティの終了後は、サトシ探しは急速に熱を失っていってしまったが、一部の熱心なファンによりサトシ探しは続けられた。しかし、撮影地の特定に成功してからは目立った成果がなかった。

 

事態が急展開を迎えたのは2020年12月、とある「サトシ・ハンター」の男性がAI顔認証ソフトにサトシの写真を用いて検索をかけたところ、とある日本人の顔写真がヒットし、連絡先まで掴むことができた。そしてその人物にコンタクトを取ったところ自分が本物の「サトシ」だということを認めたのである。

 

サトシ・ハンターたちの話を聞くと、子ども時代に雑木林で秘密基地を作ったり、遠くの山まで探検にしに行った記憶がよみがえってくるような、ワクワク感があって楽しかった。画像検索や自動翻訳が十分でない時代に写真1枚だけを頼りにはるか極東に住む見ず知らずの日本人を探すというところに面白さがある。だからこそ10年以上も熱心に探す人がいたのだと思う。

 

また、10年以上もわからなかったサトシの行方を顔認証ソフトにかけた途端に一気に発見へ向かったということにも驚かされた。

この番組の終盤ではテクノロジーの進歩に伴う恐ろしさも語られている。

顔認証の技術が向上し、地球の裏側にいる人間の素性も分かってしまう現代においては、この一連の「サトシ探し」は成立しないかもしれない。

この番組を見終わって「登場人物全員がいい人でよかった。」と思ったが、進歩したテクノロジーを「悪い人」が使うことも考慮せねばならないのが現代のインターネット社会である。

 

「サトシ探し」に感じるロマンやワクワク感は現代のインターネット社会ではもう戻ってこないだろう。それがいいことか悪いことかはわからないが。

 

「たかだかゲームに14年の歳月もかけたのかよ」という声もあるかもしれないが、ただ1人の男を探すという目的のために世界中の、普通に暮らしていたら一生つながることのない人々が国境を越えてつながり、遂に目的を達成したということはインターネット社会の一つの可能性であることは確かである。

 

また、栗原類の軽妙なナレーションや、テレビゲームのような構成の番組進行もまた面白かった。

NHKオンデマンドでも配信しているとのことなので、御興味のある方は是非とも視聴してほしい。

まだ1月ですが個人的には今年面白かったテレビ番組の暫定1位になっています。

それでは、今回はこの辺で。

news.denfaminicogamer.jp

 

<追記 2022.5.13>

2021年度ギャラクシー賞テレビ部門に入賞していました。おめでとうございます。

www.houkon.jp