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プロジェクトX批判

NHK総合テレビでかつて放送されていたドキュメンタリー番組シリーズのプロジェクトXは最近は4Kリストア版でも再放送されていて、私も何回か見た。

プロジェクトXは、第二次世界大戦後から高度経済成長期にかけて、日本の発展を支えた技術や産業について、歴史の教科書では取り上げられることのない無名の技術者や労働者にスポットライトを当てて彼ら彼女らの努力やサクセスストーリーを紹介する内容が人気を呼んだドキュメンタリー番組である。同じくNHKのドキュメンタリー番組である映像の世紀と並んで学校の授業で見たという方も多いのではないかと思う。

 

住宅団地や新幹線、青函トンネル、瀬戸大橋など今となっては必要不可欠の日本のインフラを造ったプロフェッショナルの話は面白いのでついつい見入ってしまう。

しかしその後、高度経済成長期を過ぎてバブル経済、そして失われた10年を経て2020年代に突入した日本人の感覚で見ると、プロジェクトXで映し出される物語は「過去の栄光」のように空虚なものに映ってしまうと感じるのは私だけだろうか。

 

VHSに代表されるように、かつての日本は「デファクトスタンダード(事実上の規格)」を獲得することに成功していた。

しかし、2000年代に入ってから、大手電機メーカー・シャープの経営危機に代表されるように、中国・韓国等アジア圏の国々の躍進と対比して国内企業の凋落が激しくなっていったのが事実である。

プロジェクトXで称揚された日本人の「職人の精神」が通用しなくなったのも2000年代の新興国の台頭によるところが大きいだろう。

 

2020年代に入り、失われた10年はおろか「失われた30年」とも言われるまでに低成長の時代が続いた日本で、プロジェクトXをかつてと同じように「いい時代」「日本人の凄さ」といった一面的な視点だけで捉えるのはあまりにも浅薄であろう。プロジェクトX人気を見るとかつての「三丁目の夕日」ブームに感じた違和感に近いものをおぼえる。

 

最近では「昭和」という言葉が用いられるときは「前時代的」「男尊女卑的な」といったネガティブな意味合いを含む場合が多く、それ自体が形容詞的な使われ方をする場合が多いという印象を持つ。

対して「平成」はどうだろう。今後10年、20年経てば「平成」という単語がかつて戦後復興から右肩上がりの成長を遂げた日本が没落していく様を表す形容詞として用いられるようになるのだろうか。

 

一時期、に本の技術や風俗などを海外に住んでいる人が褒めたり称えたりする、いわゆる「日本スゴイ番組」が頻繁に放送されていたことがあり(現在でもしばしば見かけるが)、主にインターネット上では批判されることも多かったが、プロジェクトXについては概して好意的な意見が多いように見える。しかし、プロジェクトXも平成の視点で、高度経済成長期の日本人を褒め称える「日本スゴイ番組」なのであるという点にも留意せねばならない。

 

私にとってプロジェクトXは好きなテレビ番組の一つで、楽しんで見ることは否定しない。しかし、いくら精細な取材や映像が使われていようとも、他者の手によって編集が加えられている時点で完全に不偏不党の内容であるという訳ではないことに注意しなければならないと思うし、これがドキュメンタリー番組の限界なのだと思う。