『週刊文春』2021年3月25日発売号に掲載予定である「渡辺直美をブタに」五輪「開会式」責任者“女性蔑視”を告発する」の記事について、個人的にかなりショックを受けたのでここに書いておく。
330円を支払えば(PayPay残高やTポイントからも可)この記事だけ読むことができる。
東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会前会長の森喜朗氏の女性蔑視発言は記憶に新しいが、週刊文春が報じるところによると昨年の3月にオリンピックの開会式の「演出チーム」の「総合統括」である電通出身のCMクリエイターである佐々木宏氏が人気タレントの渡辺直美をブタに見立てて「オリンピッグ」などと言って演出をするという内容をチームの全体チャットに送り、他のメンバーの反対により却下されたということである。
無料の記事で読めるのは大体以上の内容である。以上だけでも目を疑うような内容ではある。しかし、有料版で全文を読めば分かるが、渡辺直美の件はほんのつかみであってこの記事で最も重要な事項は「演出チーム」の責任者であった振付師のMIKIKO氏と佐々木宏氏との間に何があったのかということである。
ここに記事の内容をすべて写す訳にもいかないのでまとめると、2019年6月3日に開閉会式演出チームの一員であったMIKIKO氏が執行責任者に昇格した。7月23日にはIOC副会長のコーツ氏に1年前のプレゼンを控えていたのだが、MIKIKO氏と制作チームの奔走により2か月弱という驚異的な速さでプレゼンを完成させ、プレゼン本番でもIOCからの評判も上々だった。
しかし、昨年の1月7日に彼女の制作チームでプレゼンや各所への調整に重要な役割を担っていた電通の菅野薫氏のパワハラ疑惑が週刊誌により浮上、失脚に追い込まれたことでMIKIKO氏は後ろ盾を失い、そこに当時の組織委員会会長の森氏の手引きによって佐々木氏が演出チームに加わった。
しかし、佐々木氏はMIKIKO氏をはじめ演出チームに加わっていた椎名林檎氏、パラリンピックの開閉会式担当の女性ディレクターの栗栖良依氏の意向を全く無視しこれまでMIKIKO氏が主導していた演出チームを「乗っ取る」ような形で掌握していった、というのが記事中で報じられている大まかな経緯である。
ここでMIKIKO氏について、記事中では簡単にしか述べられていなかったため紹介する。
MIKIKO氏は1977年広島県生まれ、1999年・21歳のときに広島のテレビ局の傘下である芸能学校であるアクターズスクール広島の振付師として在籍し、Perfumeのインディーズデビュー期から現在まで振付師として携わっている。
Perfumeへの楽曲提供は中田ヤスタカ氏が行っているが、全ての楽曲の振付け、またライブ演出等の面では中心的役割を果たしておりMIKIKO氏が実質的なPerfumeのプロデューサーだと言うファンもいるくらいである。Perfumeのメンバーやファンからは「先生」と呼ばれており、今に至るまで絶大な信頼を置かれている。広島県のローカルアイドルユニットに過ぎなかったPerfumeを全国区の知名度にまで押し上げたのはMIKIKO氏の役割が大きかったといっても過言ではないだろう。
また近年では大ヒットした星野源の「恋」の振付けやダンスグループ「ELEVENPLAY」を主宰、2016年のリオデジャネイロオリンピックの閉会式セレモニーの制作にもかかわるなど活動は多岐に及んでいる。
先述のように「梯子を外された」形となったMIKIKO氏は昨年11月9日に大会組織委員会宛てに辞任届を提出した。そして11月25日に森氏と面談をしたMIKIKO氏は森氏から以下のようなことを質されたという。
「あなたが女性だったから、佐々木さんは相談できなかったのでは。事を荒立てるんじゃないだろうな」
その言葉に、MIKIKO氏は「荒立てません」と返すほかなかったという。
「渡辺直美をブタに」五輪「開会式」責任者“女性蔑視”を告発する【先出し全文】(文春オンライン) - Yahoo!ニュース
この森氏の発言は辞任のきっかけになったあの発言を彷彿させるものではないか。あの発言は大会組織委員会のこれまでの態度そのものを表していたものだったのかと改めて思わされた。
そして翌月には完全に佐々木氏体制で演出チームが動くことが決定した。
組織委員会のトップだけではなく、開閉会式の演出チームにまで「女性蔑視」が蔓延しているという事実に愕然とする。
大会組織委員会の会長は森氏に代わって橋本聖子氏が就任し、女性理事の登用などイメージの回復に努めているようであるが、女性や能力のある者を専横的に排除した組織体制がどれほど自浄されるのか、世界に誇ることのできるオリンピックにできるのかということについては甚だ疑問が残る。はっきり言ってこんなオリンピックは到底応援できない。
ここからはひとりのしがないPerfumeファンである私の思いである。
PerfumeファンにとってMIKIKO先生は全幅の信頼を置いている存在で、楽曲提供者の中田ヤスタカと並んで欠かせない人物であるということは間違いない。20代のときから広島の芸能学校の講師として、当時小学生であったPerfumeに現在に至るまで20年近く携わっていて最早Perfumeは彼女にとってのライフワークである。
MIKIKO先生はとある番組か何かで「私はPerfumeが明日なくなっても後悔はない。それぐらい全力で仕事をしている」という趣旨の発言をしているのを知って、これほど仕事にストイックになれる人間もそういないだろうと畏怖した。
そんな彼女にとって、オリンピックパラリンピックの開閉会式の演出チームに加わったことは大きな励みになっただろうし、私も自分が普段から応援しているアーティストのクリエイターが世界に向けて発信できるチャンスを得たと思うと誇らしい思いを抱いた。
しかし、今度の記事を読んで彼女が世界に発信できるチャンスをみすみす失い、それが旧態依然とした企業・権力・ジェンダーの障壁に阻まれたことが原因となると非常に悔やまれてならない。
森喜朗氏の先日の「女性蔑視発言」も含め、これはこの国の病理であると思う。女性や男性という性差もそうだが、そもそも能力のある者がそれをしかるべき場で発揮できず、旧態依然としたしがらみを打破できないのは深刻な問題であると思う。
唯一の救いは先述の佐々木氏の「ブタ」発言に対してMIKIKO先生や他のメンバーがはっきりとNOを出したことである。それでも佐々木氏は「つい口が滑った」ということを主張しているが自分の発露した差別的表現の問題性について何も理解していない辺り、もう終わりだなと思った。
この件については1人のおたくとして森氏や佐々木氏は絶対に許せないし、MIKIKO先生は、この騒動に負けないでこれからも頑張ってほしいと思う。私は応援します。森は地獄に落ちた方がいいと思う。
もうね、この1年どうしようもない閉塞感がこの国を覆っているのにこれ以上絶望させるようなニュースが出てこないでほしいと思うよ。
オリンピックができるかどうかは分からないけれど、これ以上この国の人間が失望させるニュースが出てこないことを祈ります。
追記
【五輪で侮辱演出案 統括退任へ】https://t.co/BoNvCkI9lG
— Yahoo!ニュース (@YahooNewsTopics) March 17, 2021
東京五輪・パラの開閉会式の企画、演出で全体の統括役を務める佐々木宏氏が、式典に出演予定だった渡辺直美さんの容姿を侮辱するような内容の演出を関係者に提案していたと報道。関係者によると、佐々木氏は退任する見通しとなった。
週刊誌報道が出て、佐々木氏は総合統括を退任するそうです。
とにかくMIKIKO先生には謝罪してほしいですね。