前に当ブログで"Good Night TOKYO"という映像を紹介した。
これは1992年の東京を撮影したものでソニーが撮影・制作した、当時としては非常に珍しいハイビジョン映像である。
これはソニーというプロフェッショナルの企業が当時の最高クラスの機材をもってして作られた作品であるが、一方でこの頃の東京の映像を撮った「アマチュア」もいたのも事実である。
このチャンネルのLyle Hiroshi Saxon氏は1984年から東京に住んでいる方で、主にバブル経済崩壊前の1990年からバブル経済が傾き始めた1993年までの動画を大量にこのYouTubeチャンネルに公開している。
このチャンネルの特筆すべき点は何と言ってもその動画の多さで、特に1991年に撮影された映像は1000件を超え、その多くが東京やその近辺の鉄道や街並みを撮影した映像である。
私がこのチャンネルを見つけたのは、先程の"Good Night TOKYO"の動画を見たときに「関連動画」の項目から飛んだのがきっかけだった。
そしてYouTubeで「1990 東京 鉄道」などと検索して90年代の東京の鉄道の動画を探そうとするものなら検索結果は彼のチャンネルの動画で埋め尽くされることに気が付いた。
1990年の東京はまだ自動改札機が少なく、有人改札が多かったり、街中の外国人が現在と比べて殆どいなかったりするのが確認できて面白い。
またドキュメンタリーや記録映画の多くはいわゆる"プロ"の撮った映像なので「手の加えられた」ように感じてしまい身近に感じにくくなることがある。
しかし、Saxon氏の動画はその当時の東京の住人であるという個人の、身近な視線で動画を楽しむことができるので個人的にはとても好感が持てた。
私が驚いたのはSaxon氏の行動力の高さである。
今でこそ、スマートフォンなどで簡単に動画を撮影・編集することができ、"YouTuber"といってYouTubeに動画を投稿し、お金を稼いでいる人すらいる。しかし、YouTuberという概念が生まれる30年近く前にそれに近いことをしていた人がいたことにはただ、発想の柔軟さに脱帽するのみであった。
余談ではあるが当時Saxon氏が撮影をしていた頃は、1989年にソニーから”CCD-TR55”というビデオカメラが発売された時期で、これは当時のコマーシャルで「パスポートサイズ」と小型化を全面に押し出した画期的な商品で、海外旅行に行く若者を中心に絶大な人気を得たビデオカメラだった。
「映像を撮影する」ということが一般の人にも手軽になった時代にいち早く飛びついて東京の動画を撮り始めたのであろう。
また、彼の動画を見ていれば分かるが、街歩きの中でも普通の人だったら素通りしてしまうような路地や家と家の間の狭い道だったり、商店の軒先だったり、着眼点が普通の人のそれとは違ってそれがまたとても興味深いのである。
Saxon氏は自身のサイトで「大学では撮影や映像のことを学んでいたがそれらはさほど自分の記録する行為とは関係がない」ということを語っている。
私は、東京という街の魅力が彼の膨大な映像記録を引き出したのだと勝手に推測している。
また彼は2019年になってまた映像を投稿し始めている。
しかし、最近では30年前と違ってみんながスマートフォンというカメラを持ち歩いていて手軽に動画撮影ができるため、撮影するという意義について懐疑的になっていて、街中で撮影をするという行為に抵抗を感じることも少なくないと語っている。
「記録する」という行為は長い間保存しておいて初めてその効力を発揮するものだ。
Saxon氏が30年前に動画を撮影した当時は何の面白みもないただの日常の動画だったのかもしれない。しかし、20,30年の歳月を経てインターネット上に投稿して多くの人が手軽にそれらを見ることができるのは大変有意義で、誇ってもいい仕事だと思った。
最後に、Lyle Hiroshi Saxonさんにはこれからも頑張って欲しいです。私も陰ながら応援しております。